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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)1294号 決定

被疑者 梅津正喜 外一名

主文

本件各準抗告の申立を棄却する。

理由

一  申立の趣旨および理由の要旨

本件準抗告の趣旨は、

(一)  被疑者両名に対する建物侵入被疑事件について、警視庁東京水上警察署司法警察員宮腰富雄、同江本喜代治両名が、昭和四八年一二月一日午後三時三〇分ころから同五時ころの間になした、申立人に対する被疑者両名との接見拒否処分は、いずれも取り消す。

(二)  (1) 同警察署警察官は申立人が被疑者両名との接見を求めた場合は、直ちに接見させなければならない。

または

(2) 同警察署警察官は、申立人が被疑者両名との接見を求めた場合は、昭和四八年一二月三日午後三時から同八時三〇分までの間各四〇分にわたり接見させなければならない(なお、当初、同月二日午後一時から同六時までの間各四〇分間の申立をしたが、後に上記のように変更した。)

との裁判を求めるというのであり、その理由の要旨は、

申立人は被疑者両名の弁護人であるが、右両名の弁護人(当初は弁護人となろうとする者)として、前記(一)記載の日時に同警察署において、前記司法警察員両名に対し、被疑者両名との接見の申入れをしたが、担当検察官の所在がわからず、その指示を仰ぐことができないことを理由に、これらをいずれも拒否された。しかし右各拒否処分は刑事訴訟法三九条に違反する違法な処分であるから前記(一)のとおりその取消しを求めるとともに、再度接見拒否処分をなす蓋然性が高いから、前記(二)の(1)または(2)の裁判を求める。

というのである。

二  当裁判所の判断

当裁判所の事実調の結果によれば、申立人は被疑者両名の弁護人となろうとする者として、申立の趣旨(一)記載の日時に、警視庁東京水上署において、被疑者両名との接見を申し入れたが、同署司法警察員宮腰富雄および同江本喜代治両名はいずれもこれを拒否したこと、その際申立人は、被疑者両名より看守を介して弁護人選任届をえて、これを係官に提出し、弁護人となつたことが認められる。

ところで監獄法施行規則一二二条は、「接見ハ執務時間内ニ非サレハ之ヲ許サス」と規定し、逮捕中の被疑者の場合と異なり、被疑者が代用監獄である警察署留置場に勾留される場合も、代用監獄にも監獄法および同法施行規則の適用がある以上、勾留中の被疑者と、弁護人または弁護人となろうとする者との接見は、監獄法施行規則一二二条に従つてなされるべきこととなるが、被疑者の弁護人を依頼する権利の本質的内容をなすというべき弁護人または弁護人となろうとする者との接見交通権の重要性を考慮するときは、いかなる場合でも直ちに執務時間外の接見を拒否してよいとまで断ずるのは相当ではなく、被疑者の防御の必要上緊急性が認められるような場合には、弁護人らとの接見交通権が右監獄法施行規則の制限に優先する場合も存すると解するのが相当である。

ところで、警視庁警察職員の勤務時間、休暇等に関する規程三条によれば、警察署勤務の一般職員の勤務時間は、月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午後五時一五分、土曜日は午前八時三〇から午後零時三〇分とされ、同四条で日曜日は勤務を要しない日と定めるなどしており、監獄法施行規則一二二条の執務時間は右勤務時間に相当するものと解されるところ、申立人は、土曜日である昭和四八年一二月一日午後三時三〇から同五時ころまでの間に、代用監獄である警視庁東京水上署留置場に勾留中の被疑者両名との接見を求めたのであるから、右施行規則にいう執務時間外に接見を求めたものである。そこで、執務時間外に接見しなければならない緊急性があつたか否かを検討すると、申立人が、前日、または当日の執務時間内に接見することによつては目的を達しえず、またはそれが不可能であり、次の執務時間内まで待つことができず、執務時間外に接見しなければ弁護人を依頼する権利が著しく害されるような緊急の事情が存したこと、その他被疑者の防御の必要上緊急性が存したことを認めるに足る主張立証は別段なされていないものといわなければならない。したがつて、本件は申立人の執務時間外における被疑者との接見を許容しなければならない場合に該当するものとは認めることができないというべきである。

申立人は、本件各接見拒否処分は、執務時間外であることを理由になされたものではなく、前記のように担当検察官の所在が判明しなかつたため、検察官から接見についての指定がなされない以上、接見はできない旨の見解の下に本件接見拒否処分がなされたのであつて、検察官の指定さええられれば接見が許され、かつ、担当検察官の所在が不明のときは、他の検察官が、代わつて指定を行なうべきであるのに、それもなされなかつたため拒否されたのであり、執務時間外といえども、かかる理由による拒否処分は違法といわなければならない旨主張するが、客観的にみて、執務時間外における本件接見を拒否することが違法とはいえない以上は、単にその理由として告げられたところが異なつたという一事をもつて、それが違法となると解することは困難である。

その他本件各接見拒否処分を違法と解すべき点を見出すことができないから、右各処分を違法として取り消すことはできず、本件各準抗告の申立は理由がない(なお申立の趣旨(二)(2)については時間経過のため申立の利益をも欠くに至つたものと解する)から、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、これらを棄却することとし、主文のとおり決定する。

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